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東京高等裁判所 昭和46年(ネ)751号 判決 1971年10月28日

控訴人 馬島千鶴子

右訴訟代理人弁護士 岡部勇二

被控訴人 同栄信用金庫

右訴訟代理人弁護士 山崎保一

同 中野博保

主文

本件控訴を棄却する。

控訴人が当審において予備的に申立てた仮差押命令に対する異議を却下する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人が債権者となり、債務者を申立外小林義雄とする東京地方裁判所昭和四二年(ヨ)第四五九七号不動産仮差押事件について、同庁が別紙物件目録記載の不動産について、昭和四二年四月二二日になした仮差押決定はこれを取消す。仮に前項の申立が認められないときは、本件を原審に差戻す。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決を求め(当審において予備的に本件仮差押命令に対する民事訴訟法七四四条の異議申立をしている。)被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠の関係は、左のとおり付加するほか原判決事実摘示のとおりであるから、それをここに引用する。

(控訴代理人の主張)

一、控訴人は、民事訴訟法七四七条所定の債務者に該当し、本件仮差押の失効・違法を理由に、同条による仮差押決定取消の申立をなすことができるものである。

すなわち、本件仮差押における債務者は、本件仮差押発令当時は申立外小林義雄であって、同人が本件不動産の所有者であった。しかし、本件仮差押発令のとき、すでに、本件不動産について、停止条件付所有権移転仮登記(甲区二番)(登記原因、昭和四二年二月一三日付停止条件付代物弁済契約)がなされてあり、右仮差押の登記後、右停止条件成就により(昭和四五年四月一〇日代物弁済。)、控訴人が本件不動産の所有権を取得したものである。かかる場合、本件不動産の特定承継人である控訴人は同法七四七条の債務者或はそれに準ずる者に該当し、同条の仮差押取消の申立権者であり、また、控訴人が本件不動産の所有権を取得したことにより、本件仮差押は第三者所有の不動産に対する仮差押となって失効し、違法となり、同法七四七条所定の取消事由たる事情の変更が生じたものであるから、控訴人は同条による仮差押の取消を求めることができるのである。

二、仮に控訴人が、同条所定の債務者にあたらないとしても、控訴人は、債務者小林に対する金八五万円の抵当債権の債権者として、債務者小林に代位して、本件取消の申立をするものである。

三、なお、控訴人の所有権は、本登記がされていないが、控訴人は本来本登記ができる実体を具備しているに拘らず、不動産登記法一〇五条があるため被控訴人に妨害されて本登記ができないのである。従って、控訴人は、本登記がなくても、先順位の仮登記があるから、被控訴人に対抗することができるものである。

四、強制執行は、申立によって、執行裁判所の職権で行われるものであるから、執行裁判所は違法な手続を続行することはできない。しかして、執行裁判所が被控訴人の仮差押に基づいて本件不動産を競売しても、控訴人の仮登記を抹消することができないから、競落人は完全な所有権を取得することができない。してみると、本件仮差押は、執行手続を続行することができない違法な執行処分であるから、職権で取り消されなければならない。仮差押の取消は、執行裁判所が申立により職権で行なう執行処分であるから、御庁はみずから職権で民事訴訟法七四七条の取消の裁判をすることができる。

五、前述のとおり、本件不動産は控訴人の所有となり、本件仮登記の効果として、本件仮差押は第三者の不動産に対する仮差押となって違法な決定となったものであるが、これは、同法七四七条所定の「仮差押の理由消滅」にあたると予備的に主張する。

六、(仮差押異議の申立)

控訴人は、さらに、予備的に、同法七四四条の異議の申立をするものである。すなわち、本件仮差押は、控訴人の本件不動産に対する甲区二番に仮登記された停止条件付所有権移転の停止条件成就を解除条件として発令されたものであるところ、右停止条件が成就して控訴人は本件不動産の所有権を取得したので、本件仮差押は第三者所有の不動産に対する仮差押となって失効したものである。本件仮差押決定は控訴人の本件不動産に対する所有権取得を解除条件としたものと同視することができる。よって、本件仮差押は違法であるから取消されなければならない。

(被控訴代理人の主張)

一、事情変更による仮処分命令の取消の申立権者は、債務者とその一般承継人および債務者が破産した場合の破産管財人に限られる。控訴人のこの点の主張は不当である。

二、控訴人が債務者小林に対していかなる内容の債権を有するかはともかくとして、本件の場合、債務者小林に「事情変更による仮差押取消申立の事由」は存しない。けだし、取消事由となる事情の変更とは第一に被保全権利の消滅であり、第二に保全の必要の事後的消滅であるが、控訴人への所有権移転は右いずれの事情変更にも該当するものではない。従って、債務者小林に右取消事由がない限り、控訴人が代位すべき権利はない。

三、なお、仮に債務者小林に事情変更による取消事由があるとしても、本件申立は申立の利益を欠くものであり不適法として却下を免れない。すなわち、本件不動産はいずれも昭和四四年一〇月二二日債権者芝信用金庫により任意競売の申立がなされたか、被控訴人は昭和四六年一月一一日強制競売の申立をなし、同日右任意競売申立事件に記録添附された。従って、本件仮差押は本執行へ移行したので、仮差押執行の目的を達成し、仮差押執行の効力は移行の時点より将来に向って消滅したというべきである。

控訴人は効力が消滅した本件差押を取消すべく債務者小林の事情変更による仮差押取消権を代位行使しているが、申立の利益を欠くものというべきである。

(証拠)<省略>

理由

一、(本件仮差押命令取消の申立権者について)

控訴人は、本件仮差押命令が債務者申立外小林義雄に対し発せられた当時、本件仮差押不動産の所有者は右債務者であったが、本件不動産には、当時すでに控訴人主張のような停止条件付所有権移転の仮登記がなされていたものであって、右仮差押の登記後、控訴人は、右停止条件成就により本件不動産の所有権を取得した者であるから、民事訴訟法七四七条所定の債務者、あるいはそれに準ずるものであり、同条所定の取消の申立権者である、仮に右申立権者にあたらないとすれば、控訴人は債務者小林義雄に対する控訴人主張のような債権者として、債権者代位権に基づき同条所定の取消の申立(以下、本件取消の申立という。)をするものであると主張する。

しかし、控訴人所論のごとく、本件仮差押命令の執行の目的財産である本件不動産の所有権が債務者小林義雄から控訴人に移転したとしても、それをもって

(所有権移転の対抗力の有無にかかわらず)、本件仮差押命令における債務者の地位が控訴人に移転するものとは認められず、本件仮差押命令の債務者は依然として小林義雄であるから、控訴人をもって同法七四七条所定の債務者あるいはそれに準ずるものと解して本件取消の申立権者にあたるとすることはできない。この点に関する控訴人の主張は、すべて採用できない。

もっとも、債務者の債権者は、債権者代位権に基づき、同法七四七条の取消の申立をすることはできると解すべきところ、控訴人の主張する代位の要件については、本件資料(証拠)により一応認めることができる。

二、(本件取消の申立の当否について)

実務上、仮差押命令の申請書に執行の目的財産である不動産を特定掲記しているのは、同一の書面をもって裁判機関たる仮差押裁判所に対し仮差押を申請すると同時に、あわせて執行機関たる執行裁判所に対し、その執行の申立をしているものに外ならないし、仮差押命令に、執行の目的財産として、債務者の所有に属しない不動産が特定掲記されていても、この点に関する違法は同法五四四条の方法に関する異議または同法五四九条の第三者異議等により救済さるべきであり、仮差押命令に対する異議(同法七四四条)、または仮差押命令の取消手続(同法七四七条)において論議さるべきものではない(その理の詳細につき最高裁判所昭和三二年一月三一日第一小法廷判決、民集一一巻一号一八八頁参照。)のであって、この理は、本件のごとく、仮差押命令に執行の目的財産として掲記されている不動産に、すでに停止条件付所有権移転の仮登記が存し、仮差押執行(仮差押登記)後、右停止条件の成就により所有権を取得したと主張する者(本件では控訴人)が、右仮差押は、第三者(仮差押命令記載の債務者以外の者)所有の不動産に対する仮差押となったから違法であると主張して仮差押命令に対し同法七四四条の異議、同法七四七条の取消の申立をする場合にあっても、同様であると解すべきである。右のごとき事由は、右異議、右取消の申立の理由とはならないというべきである。

控訴人が、本件取消の申立の理由として主張するところは、すべて、本件仮差押不動産が、すでに、仮差押債務者の所有ではなく仮登記権利者である控訴人の所有に帰したという事実に帰し、また、それに基づく立証であるところ、かかる事由は、同法七四七条の取消の理由とはなり得ないこと、前記説示のとおりである。

また、控訴人は、本件仮差押命令が解除条件付のものというべく、その条件が成就した旨主張するが、この点に関する主張は、独自の見解というべく、採用することができない。さらに、控訴人は、当裁判所が、本件仮差押命令を、職権をもって取り消すべき旨主張するところがあるが、この点に関する主張も、独自の見解で到底採用することはできない。

結局、控訴人が、本件取消の申立の理由として主張するところは、すべて主張自体理由がないものといわねばならない。なお、控訴人は、所論仮登記の本登記をするため(勿論、本登記の原因が備わっている場合のことであるが。)、被控訴人に対し本登記の承諾を訴をもって請求の上、その確定判決に基づき不動産登記法一〇五条、一四六条所定の手続によることもできるのである。

三、以上の次第で、控訴人の本件取消の申立は理由がなく、控訴人の本申立を却下した原判決は結局正当であって、本件控訴は理由がないから棄却すべきものである。なお、控訴人は当審において、予備的に、本件仮差押命令に対する異議の申立(同法七四四条)をなすに至ったが、当審においてかかる申立をすることは許されず、右申立は不適法として却下すべきものである。

よって同法三八四条、八九条、九五条に則り主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 柳川真佐夫 裁判官 後藤静思 平田孝)

<以下省略>

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